身体活動評価のためのデータ収集を効率化するITツールを開発
インフォグラフ
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この研究から分かった事
・身体活動を評価するために必要な作業をIT化することにより、疫学調査や身体活動のデータ収集が効率化されました。
・Webを利用したデータ管理では、データ漏洩などのリスクを防ぐ体制も必要です。
目的
多人数を対象とした疫学調査にウェアラブル機器で評価した身体活動データを取り入れるためには、データ収集やその処理を精度よく迅速に行う必要があります。これまでは、データ分析を開始するまでに膨大な作業時間や人件費のかかることが課題でした。そこで、身体活動データの収集とその処理を効率化するため、いくつかの作業をIT化しました。ここでは、開発したツールを紹介します。
方法
「WLAQ webシステム」は、労働者の座位時間や体力(心肺持久力)を調査するための労働者生活行動時間調査票(WLAQ : Worker’s Living Activity-time Questionnaire)をはじめとした複数の質問紙をWeb化したものです。協力企業での活用を企図し、研究参加への同意と質問への回答がWeb上で完結できます。メールアドレス等の回答者を特定できる個人情報は協力企業の管理者のみが閲覧可能であり、研究者はシステム内で付与された研究用IDで匿名化されたデータを電子ファイルで受け取ります。
「Web活動日誌」は、起床・就寝、勤務開始・終了など労働者の生活活動時刻を、研究参加者が自身のスマートフォンから簡単に記録することのできるWebアプリケーションです。
「HANAE2」は、Web活動日誌と身体活動を評価するためのウェアラブル機器の1つである活動量計から得られた電子ファイルを読み込み、生活活動領域別の身体活動量を算出し、結果を電子ファイルに出力するアプリケーションです。HANAE2で得られた出力結果をWLAQ webシステムに登録することで、研究参加者が自身のPCやスマートフォンから、心肺持久力や身体活動に関する分析結果を閲覧することもできます。
結果
現在、WLAQ webシステムは、協力企業との疫学調査で利用を続け、数年間にわたり、年に一度の質問票調査を行っています。Web活動日誌、HANAE2は、ウェアラブル機器を用いた所内外の身体活動のデータ収集に利用しています。これらによって、協力企業の社員をはじめとした調査対象者、協力企業管理者、研究者の負担が減ったとともに、作業をシステム化することにより、作業者のスキルによらず統一した分析データの作成が可能となりました。
考察
開発した各ツールを用いることでデータ収集から分析までの作業を大幅に軽減することができました。今後の大規模疫学調査に有効活用できると思われます。一方、Webを利用したデータ管理では、データ漏洩、不正アクセス、災害によるデータ損失などのリスクを常時抱えることとなります。また、データ処理の課程がシステムに委ねられることにより、データの詳細が見えにくくなることも懸念されます。これらを防ぐための研究体制の構築、研究者のデータ解析能力の向上も求められます。
キーワード
モバイルヘルス、ウェアラブル技術、スマートヘルス、身体活動、WLAQ
出典
蘇リナ,村井史子,松尾知明. 身体活動評価に向けたウェアラブル機器の活用と今後の展望.産業ストレス研究 2023;30:2:191-200.
https://mol.medicalonline.jp/archive/search?jo=cc7jobst&vo=30&nu=2