【学会報告】日本産業保健法学会 第4回学術大会
RECORDsメンバーが日本産業保健法学会において登壇
2024年9月21日・22日の2日間、大田区産業プラザPiOで開催された日本産業保健法学会 第4回学術大会において、RECORDsメンバーが登壇したシンポジウムの内容を報告します。
働く人々におけるオフの量と質の確保:勤務間インターバルとつながらない権利
「シンポジウム3 これからの労働時間法制のあり方と健康確保 -労働のオンとオフの境界線」に参加し、「働く人々におけるオフの量と質の確保:勤務間インターバルとつながらない権利」というタイトルで講演を行いました。
本講演では、最近、海外で法制化が進む勤務時間外の仕事の連絡を規制する「つながらない権利」に着目して、働く人々の疲労回復やストレスの解消を行う上でオフの確保の重要性についてこれまでの知見を踏まえて発表を行いました。発表では、同じように最近注目を集める新しい過重労働対策である「勤務間インターバル」をオフの量の確保と位置付けて、オフの質の確保として「つながらない権利」があること。そして、演者である久保らの知見(2021)を引用して、勤務間インターバルが確保されていたとしても、その中で仕事に関連するメールのやり取りが多い場合、疲労回復が低下して、オフでも心理的に仕事のことが頭から離れない状態(サイコロジカル・ディタッチメントの低い状態)になるので、ICTによって「何時でも何処でも働けてしまうalways-on work」の社会では「つながらない権利」で労働者のオフを守ることが重要であると主張しました。( 久保智英)
副業・兼業に係る健康管理の実態と対策
「シンポジウム6 副業・兼業における健康管理と法」に参加し、「副業・兼業に係る健康管理の実態と対策」というタイトルで講演を行いました。
本発表は、副業・兼業に係る労務・健康管理及び健康状況の実態から対策について、医学系文献データベースの文献レビューなどの結果も踏まえて報告しました。1999~2019年の文献レビューの主な結果から、ストレスチェックの受検率は事業場規模50人以上でも50人未満でも副業・兼業ありの者の割合が低かったものの、高ストレスと判定された者の割合、面接指導を受診した者の割合とも大きな差異はみられませんでした。文献レビューの性質やコロナの時期での調査が多かったという知見への解釈へは一定の配慮が必要にはなりますが、健康管理については、副業・兼業ありの者はストレスチェック受検率、一般健康診断受診率とも低いので、それらを受検(診)できるような方策の重要性を示唆しました。( 佐々木毅)
産業疲労研究者としての過密労働の定義と対策に関する一考察
「連携学会シンポジウム2 裁判所による産業ストレスの認定を検証する(4)国・豊田労基署長(トヨタ自動車)事件(名古屋高判令3.9.16、名古屋地判令2.7.29)」に参加し、「産業疲労研究者としての過密労働の定義と対策に関する一考察」というタイトルで講演を行いました。
発表では過密労働の問題に焦点を当てて、1)過密労働をどのように把握することができるのか?、2)過密労働による問題をどのように防ぐことができるのか?の2点について発表が行なわれました。そして、北欧では長時間労働よりも過密労働(Work intensity)の方が問題になっていること、今後日本でもICTの発達によって過密労働が問題になる可能性を示唆しました。過密労働の把握については、量的な過密労働と質的な過密労働の側面から少なくとも5つのパターンが考えられること。そして、Maunoらのレビュー論文(2023)の中で、質的な過密労働の方がより深刻な影響があるかもしれないという指摘を紹介しました。対策としては現在、労働時間の客観的な把握義務があるように、タスク管理についても見える化することが対策の第一歩になること、ただし、認知的負荷の高いタスクや困難度の高いタスク等の質的な過密労働については把握が現在の技術をもってしても見える化が難しいということにも触れて発表を終えました。( 久保智英)
医師の精神障害による過労死等の実態と医師の働き方改革への期待
「連携学会シンポジウム3 医師の働き方改革と法 -研修医過労死事案をめぐって―」に参加し、「医師の精神障害による過労死等の実態と医師の働き方改革への期待」というタイトルでシンポジストとして報告を行いました。
本報告では、1)過労死等防止対策推進法と医師の過労死等事案分析、2)医師の健康に関連した裁判事例と重要論点、3)医療法改正後の施策動向と具体的取組と今後の課題の3点を中心に医師の精神障害の労補償状況の実態と対策について演者の私見を展開しました。医師の過労死等事例分析から、①医師の精神障害事案は年々増加傾向であること、平成22年4月~令和3年3月の11年間の対象期間において②研修医が14件(45.2%)で、うち初期研修医(1~2年目)は5件、後期研修医(3~6年目)は9件、③自殺事案が13件(41.9%)で10件が男性、④20歳代が8件、30歳代が14件で40歳未満が医師事案の7割であること、⑤決定時疾患名は適応障害が4件(12.9%)である一方で、うつ病エピソードが16件(51.6%)を占めているなどが明らかになっています(高橋有記、吉川徹ほか2024)。それを踏まえて、IT技術活用、タスクシフト・シェアリング、地域医療計画、良好事例の共有等のような医師の労働環境改善には、組織的な取り組みが期待されることを報告しました。(吉川徹)