テキストマイニングを用いてタイプ分けした職場での暴言が労働者のメンタルヘルスに与える影響
インフォグラフ
テキストマイニングを用いてタイプ分けした職場での暴言が労働者のメンタルヘルスに与える影響
(クリックするとインフォグラフのダウンロードフォームが立ち上がります)
この研究から分かった事
・暴言の内容の違いによって、労働者のメンタルヘルスへの影響も異なるかもしれません。
・命に関する暴言では、うつ症状リスクとの有意な関連がありました。
・仕事能力に関する暴言では、睡眠障害リスクと有意な関連がありました。
目的
この研究では、職場における暴言の内容(言葉)の違いが労働者のメンタルヘルスとどう関連するのかについて、追跡調査によって明らかにしました。
職場における様々なハラスメントは、依然として日本の労働環境が抱える問題の一つです。その中でも暴言などの「精神的な攻撃」は多くの被害が報告されており、特に対策が必要な状況です。暴言は、直接的な被害者だけでなく、その場に居合わせて暴言を聞いてしまう間接的な被害者も生むため、対策が必要です。
これまでの国内外の研究から、職場で暴言を浴びることは不安や抑うつ、睡眠障害、バーンアウトそして生産性の低下など、多くの悪影響があることが知られています。そして暴言の存在する職場では、暴言の無い職場と比較して離職したいと考える労働者が有意に増えることも報告されています。
このように、暴言によって労働者に様々な悪影響があることは繰り返し示されてきましたが、暴言の被害については被害があったかなかったかというデータしか収集されておらず、どういった内容の暴言がどういった影響を及ぼすのか?という点については研究が行われてきませんでした。
そこで本研究では、暴言の被害の有無だけでなく実際に職場で聞いたこと・言われたことのある暴言の言葉を収集してテキストマイニングという手法も用いて分類し、うつ症状や睡眠といったメンタルヘルスの指標との関連を検証しました。
方法
過労死等防止調査研究センターの調査などから特に暴言被害が多いことが示されていた、小売り・卸売業で働く労働者800名を対象にWEB追跡調査を実施しました。初回調査の1年後に行った追跡調査に参加したのは、800名のうち500名(62.5%)でした。WEB調査では、これまでに職場で暴言を聞いたことがあるか、聞いたことがある場合はどのような内容だったかを尋ねました。さらにアウトカム指標として、抑うつ症状スクリーニングの一つであるCenter for Epidemiologic Studies Depression Scale (CES-D)や、睡眠障害のスクリーニングに用いられるPittsburgh sleep quality index(PSQI)にも回答してもらいました。
集まった暴言の実例については、MeCabやKH-Coderを用いたタイプ分けによって(人格攻撃系、殺害脅迫系、仕事能力系、その他の4タイプに分類しました。それぞれの暴言タイプに対するばく露の有無を説明変数とするロジスティック回帰分析によって、CES-DやPSQIと各暴言タイプの関連を検証しました。
結果
追跡できた500名のうち、追跡期間中に暴言ばく露の経験があったのは108名でした。先行研究と同様に、暴言へのばく露があった108名ではうつ症状や睡眠障害リスクの有意な上昇がみられました。
収集した暴言は「やせろ、デブ!」や、「殺すぞ」、「ほんと役に立たない」や「逆らうな。いうことを聞け」など多岐にわたり、出現する単語によって先述の通り4タイプのばく露有無を記録しました。インフォグラフ内には、それぞれのタイプで特に顕著にみられた単語についてワードクラウドとして表示しています。
最後に、4タイプの暴言へのばく露有無を説明変数として、CES-DとPSQIをアウトカムとするロジスティック回帰では、殺害脅迫系の暴言がうつ症状リスク(CES-D)と有意に関連すること、そして仕事能力系の暴言が睡眠障害(PSQI)と有意に関連することが示されました。
考察
今回の調査研究から、依然として暴言の被害に遭われている労働者が多く存在すること、そして暴言の内容によって被害者に生じるリスクも異なる可能性が示唆されました。特に、生命・生存に関するような暴言がうつ症状と関連することが示されたことにより、生命にかかわる暴言はいかなる状況でも許容されないということが改めて示されたといえます。
仕事能力に関する暴言は、睡眠に悪影響を与えることが示唆されました。これは長時間労働を誘発したことや、仕事からの心理的なディタッチメントを阻害して睡眠の質を低下させたことが考えられます。睡眠障害はより重篤な精神障害や生産性の低下につながりうるため、仕事に関する指摘も伝え方には注意が必要かもしれません。
本研究では、暴言タイプの違いによって生じる健康リスクにも違いがある可能性を示すことができました。一方で、結果の一般化にはサンプル数が十分ではないこと、また暴言タイプの分類が研究者の主観に依った点には特に注意が必要です。今後はサンプル数を増やすとともに、暴言被害からメンタルヘルスの低下に至るメカニズムの解明も求められます。
キーワード
ハラスメント、暴言、メンタルヘルス、睡眠障害
出典
Nishimura, Y., Matsumoto, S., Sasaki, T., & Kubo, T. (2024). Impacts of workplace verbal aggression classified via text mining on workers’ mental health. Occupational Medicine, 74(2), 186–192.