心血管疾患と毛髪コルチゾール:慢性ストレスの新たなバイオマーカー

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出典論文

Iob E et al., Cardiovascular disease and hair cortisol: a novel biomarker of chronic stress. Current Cardiology Reports 2019 21: 116. doi: 10.1007/s11886-019-1208-7.

著者の所属機関

Department of Behavioural Science and Health, University College London, London,UK
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、行動科学・健康学部門(イギリス)

論文の内容

レビューの目的:本レビューは、心血管疾患における慢性ストレスのバイオマーカーとして、人の毛髪中のコルチゾール濃度に焦点を当てました。コルチゾールの過剰な分泌が心血管系にもたらす影響を概説するとともに、毛髪コルチゾールと心血管疾患との関連を検討した近年の研究について包括的に概観します。さらに、臨床的意義および現在得られているエビデンスの限界について論じ、今後の研究の方向性を示します。

最近の知見:毛髪コルチゾールは、数週間にわたって毛髪中に取り込まれた総コルチゾール分泌量を定量化できるため、慢性ストレスの信頼性の高いバイオマーカーとなりえます。増えつつある研究知見は、毛髪コルチゾール濃度の上昇が、心血管疾患の発症だけでなく、回復不良や治療転帰の不良とも関連することを示唆しています。さらに、毛髪コルチゾール濃度の上昇は、高血圧、糖尿病、肥満など、心血管疾患の確立された心血管代謝リスク因子とも関連しています。

要約:毛髪コルチゾールは、慢性的なコルチゾールの過剰分泌を反映する有望なバイオマーカーであり、心血管疾患の発症機序および予後の双方に関与している可能性があります。しかし、現在のエビデンスは、小規模な横断研究に大きく依存しています。エビデンスに基づく新たな介入法の開発につなげるためには、心血管疾患患者および健常者を対象とした、より大規模な縦断研究が必要です。

RECORDsメンバーによる解説

毛髪は生成される際に血中の様々なホルモンが取り込まれることが分かっており、ストレスホルモンとして知られているコルチゾールも毛髪から測定できることがわかっています。毛髪は1か月で約1センチ伸びるため、例えば、毛髪の根元から1センチの部分には最近1か月分のコルチゾールが蓄積されていると考えられています。本論文では、この毛髪コルチゾールと心血管疾患(急性心筋梗塞、脳卒中など)の関連を調べた研究をレビューし、6本中5本の研究で、心血管疾患を有する人の毛髪コルチゾール濃度が高かったことが報告されています。また、毛髪コルチゾールと心血管疾患の予後や心血管疾患のリスクファクターとの関連についても合わせて報告しています。なお、この毛髪コルチゾールと心血管疾患の発症の関連については、最近のメタ分析(Kuckuck et al., J Intern Med, 2024)でも、改めて関連が確認されています。ただし、これらの研究は横断的なデザインのものが多く、今後は、毛髪コルチゾールと心血管疾患の発症について、より大規模な縦断研究が必要であると考えられます。毛髪は非侵襲的に採取でき、過去数か月にわたるストレス曝露を事後的に評価できるという特徴を有しています。そのため、労働者の慢性的なストレス蓄積と心血管疾患リスクとの関連を解明する研究や、過労死等の予防に向けたリスク評価手法の開発において、有用なバイオマーカーとなる可能性があります。

井澤 修平(いざわ しゅうへい)
記事を書いた人

井澤 修平(いざわ しゅうへい)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の上席研究員で、専門分野は精神神経内分泌免疫学、産業保健心理学、産業ストレス。早稲田大学先端科学・健康医療融合研究機構などでの職歴を持つ。現場介入チームでバイオマーカーの部分を担当し、ストレスや過重労働の生理的な影響を、唾液、毛髪、爪に含まれるホルモンなどによって評価している。モットーは「才能とは努力を継続できる力である」。オフの時間はインドア派で、TVドラマを見たり、ゲームをしたり、本を読んだりして過ごす。