協働ロボットとの向き合い方~シニアと若手労働者の主観的経験

協働ロボットとの向き合い方~シニアと若手労働者の主観的経験
目次

出典論文

Rossato, C., Pluchino, P., Cellini, N., Jacucci, G., Spagnolli, A., & Gamberini, L. (2021). Facing with collaborative robots: the subjective experience in senior and younger workers. Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, 24(5), 349-356. DOI: 10.1089/cyber.2020.0180

著者の所属機関

パドヴァ大学ヒューマンインスパイア―ド技術センター(イタリア)
Human Inspired Technology Center, University of Padova, Padova, Italy.

内容

製造業において人間と協働し、人間の作業をサポートするロボットを協働ロボットやコラボレーティブ・ロボット(コボット)という。本研究は、コボットの使用感を成人労働者とシニア労働者との間で比較した実験研究である。参加者は20名で、55歳以上をシニア群とし(平均63.3歳、女性4名)、35~54歳を成人群とした(平均43.3歳、女性4名)。参加者は、コボット(UNIVERSAL ROBOT(UR10e))を使った簡単な作業課題を、手動操作とタブレット操作で行った。参加者は、作業課題前、手動操作後、タブレット操作後の計3回質問票に回答した。質問票はロボットの受容性、ユーザビリティ、ユーザ・エクスペリエンス(UX)、知覚された作業負荷に関する標準化された項目で構成されていた。実験の結果、先行研究や事前予想と異なって、成人だけでなく高齢者でもシステムの受容度が高かった。また、参加者は、事前に予想したよりも実際の操作が簡単であったと回答した。作業時間は、シニア群において、タブレット操作の方が手動操作よりも長かった。ユーザビリティは、シニア群に比べ、成人群で高かった。UXについて、シニア群はロボットをより「支援的」「競争的」「支配的」と評価していた。また、シニア群は、手動操作をタブレット操作よりも「楽しい」「魅力的」と答えたのに対して、成人群は逆の回答であった。シニア群は課題への関与が高いのに対して、成人群は満足感が高かった。タスク負荷について、シニア群は成人群よりも高い身体負荷、時間的プレッシャー、フラストレーションを感じ、低い知覚的パフォーマンスを報告した。以上の結果から、高齢者は慣れないタブレット操作から身体的負荷(重さなど)や時間的プレッシャーを感じるが、受容性は高く、支援的という認識もあった。これらは、使いやすさの実感(PEOU: perceived ease of use)や知覚された有用性(PU: perceived usefulness)がロボットの利用意向(IU: intention of usage)に直接影響を与えるとする技術受容モデル (TAU: technology acceptance model)1 を支持する結果であった。コボットの導入が高齢者にとって必ずしも深刻な障壁となるわけではないと考えられる。より複雑な作業課題に関する大規模な検証が必要である。

1Davis FD. Perceived usefulness, perceived ease of use, and user acceptance of information technology. MIS Quarterly 1989; 13:319–340.

解説

本研究は、EUホライズン2022(https://cordis.europa.eu/project/id/826266)に採択された「CO-ADAPT: Adaptive Environments and Conversational Agent Based approaches for Healthy Ageing and Work Ability / CO-ADAPT ヘルシーエイジングと就労能力のための適応環境と会話型エージェントアプローチ」というプロジェクト(2018年12月~2022年3月)の一環で行われたものである。小規模な実験で、結果を直ちに一般化するべきではないが、高年齢者の障害ではなく、能力や可能性に着目している点に好感が持てる。手動操作の様子が明確には示されていないが、タブレット端末でロックを解除しつつ、もう片方の手で本体を直接操作したものと思われる。ロボットとの協働は、製造業に限らず、多くの職場で取り入れられていくことが予想される。日本においても細かな検証を重ねることで、ロボットの導入に伴う労働者の心身の負担を明らかにし、効果的な導入方法を検討する必要がある。

木内 敬太(きうち けいた)
記事を書いた人

木内 敬太(きうち けいた)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の任期付研究員で、現場介入調査班と事案研究班に所属。専門分野は産業保健心理学、コーチング心理学、キャリアコンサルティング。主要な職歴として、心理カウンセラー、スクールカウンセラー(仙台市、宮城県、埼玉県)、高崎商科大学の非常勤講師、人間総合科学大学の助教など。座右の銘は、「取捨選択しない」。オフの時間は家族と過ごし、子供たちとの時間を楽しんでいる。