RECORDsの取組み

令和5年度過労死等防止調査研究センター研究成果発表シンポジウムの報告

令和5年度過労死等防止調査研究センター研究成果発表シンポジウムの報告
目次

令和5年度過労死等防止調査研究センター研究成果発表シンポジウムの実施報告

2024年3月11日(月)、新橋の会場とオンラインの併用で、過労死等防止調査研究センター(RECORDs)研究成果発表シンポジウムが開催されました。シンポジウムは3部構成で、第1部は「過労死等研究のこれまでの成果とこれからの課題」と題して、RECORDsから5件、大原記念労働科学研究所から1件の成果報告がありました。第2部は、北里大学医学部公衆衛生学単位教授の堤明純先生より「職場のメンタルヘルス向上と研究上の課題」と題して特別講演がありました。そして、第3部は、「過重労働・過労死等の予防のために研究すべきこと」というテーマでの総合討論が行われました。

第1部「過労死研究のこれまでの成果とこれからの課題」

第1部のRECORDsからの研究成果報告では、まず、「過労死等事案を読み解く」というタイトルで、脳・心臓疾患と精神障害の認定事案の概要について報告がありました。脳・心臓疾患については申請件数が横ばいで、認定件数が減少傾向、精神障害については、申請件数、認定件数ともに増加しています。(事案研究班の紹介

「JNIOSH職域コホート研究から探る過労死等予防の可能性」というタイトルの報告では、コホート研究の進捗の報告があり、今後膨大なデータから横断的、縦断的に労働要因と健康状態との関連について検証を進めていくという計画が話されました。(職域コホートチームの紹介

現場介入チームからは、「職場の過労特性に応じたオーダーメイドの疲労対策研究」というタイトルで、勤怠スケジューラー、ウェアラブルデバイス、過労徴候しらべ、ストレスの生化学的指標など、各種ツールの紹介とともに、職場の特性を踏まえた疲労対策研究の重要性が報告されました。(現場介入チームの紹介

実験研究の成果として、「高リスク労働者への配慮は必要?」というタイトルの報告がありました。30代から60代の男性を対象とした実験により、作業課題中の血圧変化への年齢や高血圧症の影響や、長めの休憩による緩和効果が認められたということです。(心血管系チームの紹介

RECORDsからの最後の報告では、「体力評価に基づく疾病予防戦略と実践的アプローチ」というタイトルで、過労死等防止に向けた体力研究の重要性について話されました。(体力科学チームの紹介

そして、大原記念労働科学研究所からは、対策実装研究についての報告があり、第3期(2021~2023年度)の5つのアクションプランに基づく取り組みと、第4期の計画について話されました。(対策実装チームの紹介

会場からは精神疾患の労災申請・認定数の増加、家庭のストレスの影響、RECORDsで行われている研究の参加者の公募、がんに関する過労死等についての研究、2024年問題との兼ね合いで建設業や運輸業の働き方改革についてなどの質問があげられ、ディスカッションが盛んに行われました。

成果シンポジウム②第2部「特別講演:職場のメンタルヘルス向上と研究上の課題」

第2部の特別講演では、堤明純先生より、過労死等とそのリスクファクターを結ぶメカニズムとしてのメンタルヘルスの重要性、研究と実務を結ぶ実装研究の役割、社会実装を念頭に置いた介入研究について、大変わかりやすく説明していただきました。

成果シンポジウム③第3部「総合討論:過重労働・過労死等の予防のために研究すべきこと」

第3部では、総合討論として、演者間のディスカッションと、会場とオンライン参加者からの質問への回答が行われました。加えて、過労死等の防止を見据えた研究成果を積み上げていくことの重要性について認識が共有されました。

全体を通して、一般の方の参加もあり、改めて、過労死等の防止が社会的にとても重要なテーマであるということを実感しました。また、長時間労働や心理社会的要因が過労死等のリスクを高めることはほとんど明らかになっている中で、現状の取り組みは、社会実装を見据えた研究にシフトしてきており、特別講演の内容や、参加者との質疑応答、演者間のディスカッションを通して、その正しさが再認識される機会でした。

具体的に演者間のディスカッションでは、全日本トラック協会の健康診断結果の見える化や鹿児島県トラック協会の声掛けによる地域での健康管理の取り組みを開始する好事例がある一方、ストレスチェック後による面接指導に課題のあること、50人未満の企業は、取り組み方がわからない、支援・情報へのアクセスが出来ない等の課題も指摘されました。また、2024年問題も含めた長時間労働対策には、企業が従業員の労働時間を適正に把握することが重要であり、改めて従業員の労働時間の把握からの改善が長時間労働の対策になると確認しました。

以上の現状を踏まえ、今回の第3期がその転換点であり、第4期(2024~2026年度)からは、実態解明をいかに社会実装、過労死等の防止、よりよい働き方の実現に結び付けていくかに焦点を当てた研究が一層求められるのは確かであると思いました。

◇当日のプログラム ⇒ こちらから

木内 敬太・茂木 伸之(きうち けいた・もてぎ のぶゆき)
記事を書いた人

木内 敬太・茂木 伸之(きうち けいた・もてぎ のぶゆき)

木内 敬太:過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の研究員で、現場介入チームと事案研究班に所属。専門分野は産業保健心理学、コーチング心理学、キャリアコンサルティング。 茂木 伸之:過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の研究員で、事案研究班に所属。専門分野は人間工学、労働科学、産業人間工学。