長時間労働の管理-マネジメント・サーベイを用いた検証

長時間労働の管理-マネジメント・サーベイを用いた検証
目次

出典論文

Tanaka, M., Kameda, T., Kawamoto, T., Sugihara, S., & Kambayashi, R. (2025). Managing long working hours: Evidence from a management practice survey. Journal of Human Resources60(1), 37-69.

https://jhr.uwpress.org/content/60/1/37

著者の所属機関

東京大学、一橋大学、内閣府、日本大学、武蔵大学

論文の内容

従業員の長時間労働に関して、組織のマネジメントの役割に着目する研究は少ないです。本研究は、政府統計「組織マネジメントに関する調査」と「賃金構造基本統計調査」データを接合し、2010年と2015年の2期パネルデータを構築しました。従業員を30名以上雇用している製造業の827事業所に働く72,180名従業員を対象に、事業所のマネジメントのあり方と従業員の長時間労働との関係を検証しました。事業所のマネジメントの特徴や質を数量的に捉えるため、国際的に使われる質問調査票MOPS (Management and Organizational Practices Survey)の日本語版を用いました。事業所のマネジメントと時間外労働時間の分布との関連を見るため、時間外労働時間を5時間刻みで、5時間超から50時間超を検証しました。

分析結果によると、ボーナスと昇進に関するマネジメントの改善は月35時間超までの時間外労働と有意な正の関連が見られましたが、40時間超以上の時間外労働と有意な関連が見られませんでした。このことは、ボーナスと昇進に関するマネジメントの改善は、時間外労働をある程度押し上げますが、極端な長時間労働まで押し上げるわけではないことを明らかにしています。一方、生産監督と目標設定に関するマネジメントの改善は月35時間超以上の時間外労働と有意な負の関連が見られました。具体的に、生産監督と目標設定スコアが0.1ポイント改善すると、月45時間超の時間外労働を従事する従業員の割合が7.7%低下することを示しています。

RECORDsメンバーによる解説

組織のマネジメントのあり方を定量化することが困難であるため、組織のマネジメントと従業員の労働時間等との関連性に関する知見が蓄積されていません。本研究は製造業における労働時間管理に貴重な知見を示唆しています。

例えば、「生産目標の達成度に応じたボーナスを決める場合に、個人の目標の達成度に基づく」等の採用は、従業員が長時間労働を行うインセンティブになる可能性があります。

一方、「生産工程に問題が生じた時、問題点を解消し、再び起こらないよう対策を採ったうえ、同様の問題を未然に防ぐための継続的な改善プロセスを設ける」、「複数のKPI指標を利用する」、「頻繫にKPI指標を確認する」、「KPIを知らせる掲示板を複数個所に設置する」、「短期と長期の両方を組み合わせた生産目標の設定」等の生産監督と目標設定に関するマネジメントの改善は長時間労働の減少につながる可能性があることを明らかにしました。

 ※KPI (Key Performance Indicator: 重要業績評価指標)

王 薈琳(おう かいりん)
記事を書いた人

王 薈琳(おう かいりん)

労働安全衛生総合研究所 社会労働衛生研究グループ所属。専門は厚生経済学。現在は主に労働時間の量・質と労働者の健康、well-beingとの関連について研究している。