参加型労働時間スケジューリングソフトウェアの使用が労働時間の特性と幸福に及ぼす影響: 不規則勤務に関する準実験的研究
出典論文
Karhula K, Turunen J, Hakola T, Ojajärvi A, Puttonen S, Ropponen A, Kivimäki M, Härmä M. The effects of using participatory working time scheduling software on working hour characteristics and wellbeing: A quasi-experimental study of irregular shift work. Int J Nurs Stud. 2020 Dec;112:103696. doi: 10.1016/j.ijnurstu.2020.103696.
著者の所属機関
Finnish Institute of Occupational Health (Työterveyslaitos), P.0. Box 40, FI-0 0 032 Helsinki, Finland
内容
医療分野の研究によると、適切な労働時間管理はより良い幸福感につながるだけでなく、圧縮勤務スケジュール(1回の労働時間を長くすることで、まとまった休日を得やすくするスケジュール)などの非人間工学的な勤務スケジュールにも関連していることが示されている。参加型労働時間スケジューリングは、人間工学的な基準により個人及び組織が共同的に交替制勤務を組むための方法である。現時点では、参加型労働時間スケジューリングソフトウェア(participatory working time scheduling software)の導入後に交替制勤務のような不規則な勤務における労働時間の特徴や働く人の健康状態が変化するかどうかについての情報は不足している。そこで、本研究はフィンランドの病院従業員の労働時間特性と健康状態に対する、デジタル参加型労働時間スケジューリングソフトウェア(参加型スケジューリング)の1年間の使用の影響を調査することを目的とした。労働時間スケジューリングソフトウェアは病棟単位で導入されており、病院で決められた病棟ごとのルール(1人あたりの夜勤や週末勤務の最小数、人員配置要件など)に基づいて各自でスケジューリングを行った。計画されたスケジュールが人間工学的な基準に合致しているかは、ソフトウェア上で4段階に色分けされて示された(緑=良好、黄=適度、橙=避けるべき、赤=禁止)。看護師と准看護師を対象に、客観的な労働時間特性と幸福度が2015年(初回調査)から2017年(追跡調査)にかけてどのように変化するかについて、ソフトウェアを使って各自が交替制を決める参加型スケジューリング(283名)と管理者が組む従来型スケジューリング( 394名)との間で比較した。長時間労働シフト (12 時間以上) の割合は、従来型スケジューリングよりも参加型スケジューリングの方が増加した。また参加型スケジューリングでは、勤務スケジュールのコントロール感が向上し、夕勤に関連した過度の眠気が大幅に減少した。他の幸福度変数では統計的に有意な変化を示さなかった。それ以外の、客観的に測定された労働時間特性と幸福感の両方にほとんど影響を与えなかった。この結果は、より長期間の追跡調査により大規模なサンプルで確認する価値がある。
解説
これまでに、労働者の安全、健康に資する人間工学的な交替勤務編成の提案や、勤務表を自分自身で組むこと(self-rostering)の効果検証は行われてきたが、その両方を組み合わせて現場実装を行った研究は見られなかった。本論文では、人間工学的な基準に沿って働いているか評価する機能(評価点は、労働時間の長さ、労働時間のタイミング、回復期間、労働時間への裁量等)を持つ参加型スケジューリングソフトウェアの使用にもかかわらず、長時間労働の割合がわずかではあるが増えるなどの人間工学的基準に反する勤務が選択される結果が示された。しかし、主観的な睡眠時間や睡眠の質、幸福感には参加型と従来型で差は見られなかった。参加型でコントロール感が高い結果から、勤務編成への裁量度が人間工学的勤務の遵守と同等以上に重要かもしれない。また、今回の実験では参加型スケジューリングは睡眠の改善にまで効果が及んでおらず、安全や健康にとって重要な疲労回復を促進させるために、人間工学的な勤務編成には客観的な測定値に基づく睡眠評価の視点も加える必要があるかもしれない。