看護師のセルフモニタリング能力は交替制勤務の影響を受ける

看護師のセルフモニタリング能力は交替制勤務の影響を受ける
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看護師のセルフモニタリング能力は直前の睡眠や勤務時間に関わらず夜勤時に低下していた看護師のセルフモニタリング能力は直前の睡眠や勤務時間に関わらず夜勤時に低下していた

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この研究から分かった事

・交替制勤務で働く看護師のセルフモニタリング能力は、特に夜勤時に低下していました

・実際の能力低下は無かったにも関わらず、自己の能力に対する認識が夜勤時に低下していました

・正確なセルフモニタリングは医療現場の安全と健康にとって重要なため、負担の少ないシフト勤務の重要性が示されました

目的

現代日本の医療サービスは、夜勤・交替制勤務者の方々によって24時間体制で提供されており、多くの人がその恩恵を受けています。一方で、シフトワークは日ごとの勤務時間帯が変わっていくため、体内時計に抗って働くシフトワーカーでは認知能力低下や健康上の問題が生じやすいという課題があります。

特に、自身のパフォーマンス変化を自覚する能力であるセルフモニタリング能力は、医療従事者本人だけでなく患者の健康と安全を守るうえでもとても大切な認知機能の一つです。これまでにも夜勤や睡眠不足がセルフモニタリング能力に与える影響は実験などを通して検証されてきましたが、実際の勤務者を対象に夜勤・交替制勤務がセルフモニタリング能力に与える影響を調べた研究はありませんでした。

そこでこの研究では、交替制勤務に実際に従事している看護師を対象に、交替制勤務とセルフモニタリング能力の関連について明らかにすることを目的に現場調査を行いました。

方法

3交替制(日勤、準夜勤、深夜勤)を採用する総合病院の病棟看護師30名(全員女性, 平均28.2歳)を対象に、22日間の調査期間を設けて研究に参加いただきました。参加者の方々には、期間中の全勤務日の退勤前に、パフォーマンス予測とPsychomotor Vigilance Task(PVT課題※)の成績測定を行っていただきました。パフォーマンス予測では、これから行うPVT課題でどれぐらいの反応時間や見逃し回数を記録すると思うかを聞き、続いて実際にPVT課題を5分間実施していただきました。

統計解析では、PVT課題の反応時間中央値(RT)や見逃し回数と各予測値の差(=セルフモニタリングの成績)について、当日の勤務時間や直前の睡眠時間も考慮して、勤務時間帯の違いがセルフモニタリング能力に与える影響を検証しました。

結果

PVTの予測RTは、シフト間で統計的に有意な差がありました。深夜勤時は日勤時や準夜勤時と比べてより悲観的な予測が行われていました。一方で、実際のRTはシフト間で有意な差はなく、どのシフトでも一貫して0.28秒程度ととても高いパフォーマンスが発揮されていました。

実測値から予測値を引いたセルフモニタリング成績については、予測値のシフト間差を反映して深夜勤時で最も成績が悪く、準夜勤が次いで悪いという結果でした。なお、勤務や睡眠の長さは、セルフモニタリング成績と有意な関連はありませんでした。

考察

この研究から、夜勤交替制勤務は看護師のセルフモニタリング能力に対して負の影響を与えることが示唆されました。体内時計のリズムに沿わない時間帯に働くことが認知機能に影響し、悲観的なパフォーマンス予測につながったことが背景として考えられます。

したがって、今後は、より労働者への負担が少ないシフトの組み方や適切な夜間照明の整備などを通して、労働者のパフォーマンスを維持しながらセルフモニタリング能力も維持するような対策が求められるでしょう。


※ PVT課題とは、覚醒度(眠気の度合い)の客観的な評価に広く用いられている心理課題です。測定デバイスにある小窓に数字が表示されたらなるべく早くボタンを押す、という作業を一定時間(本研究では5分間)繰り返します。この課題の反応時間や、ある基準よりも反応時間が長くなった回数(見逃し回数)などから、その時の覚醒度を評価します。

キーワード

自己認知、仕事パフォーマンス、シフトワーカー、医療従事者、フィールド調査

出典

Yuki Nishimura, Hiroki Ikeda, Shun Matsumoto, Shuhei Izawa, Sayaka Kawakami, Masako Tamaki, Sanae Masuda, & Tomohide Kubo. (2023). Impaired self-monitoring ability on reaction times of psychomotor vigilance task of nurses after a night shift. Chronobiology International 40(5), 603-611.

https://doi.org/10.1080/07420528.2023.2193270

西村 悠貴(にしむら ゆうき)
記事を書いた人

西村 悠貴(にしむら ゆうき)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)では、現場介入調査班と循環器班に所属。専門分野は生理人類学・生理心理学。脳波などの生理指標を扱う実験系の専門性を生かして、夜勤・交代制勤務、長時間労働(運転)などに関する各種実験に関わっている。また、過労自殺事案の解析も担当していた。研究者になったきっかけは、ヒトがお互いに影響を与える背景や仕組みに興味を持っていたからである。オフの時は、自宅に小さなLinuxサーバーをおいて、おうちDXを目指して遊んで過ごしている。