勤務間インターバルの長さと客観的・主観的睡眠:実験での検証

出典論文
Holmelid Ø, Pallesen S, Bjorvatn B, Sunde E, Waage S, Vedaa Ø, Nielsen MB, Djupedal ILR, Harris A.
Simulated quick returns in a laboratory context and effects on sleep and pre-sleep arousal between shifts: a crossover controlled trial. Ergonomics. 2024 Apr 8:1-11.
doi: 10.1080/00140139.2024.2335545.
Epub ahead of print. PMID: 38587121.
著者の所属機関
ノルウェー・ベルゲン大学心理社会科学部
内容
我が国の労働時間は全体として減ってきていますが,今も深刻であるのは変わりません。そこで,労働基準法が改正され,1999年度・2000年度より大企業・中小企業で働く人には,残業できる上限の時間が罰則付きで決められました。職業ドライバー,建設業従事者,医師については,この上限規制の適用が5年間猶予されていましたが,2024年度より適用されるようになりました。
働く時間の規制のペアとして,働かない時間(休息時間)の規制-勤務間インターバル制度-が注目されています。この制度は疲労回復に必要な睡眠の時間,自分の時間,家族等との時間を確保するのに役立つと言われています。それを支持する研究成果は増えていますが,多くは働き方,勤務間インターバル,睡眠,疲労などのデータを集めて,それぞれの関連を分析しています。ですので,勤務間インターバルが長い時に睡眠は長いことをつかめても,両者に因果関係があるのか(勤務間インターバルが長いから睡眠は長くなるか)は分かっていません。
その解明に近づくために,ノルウェーの研究者は勤務間インターバルの長さと睡眠との関連を実験施設内での実験によって調べました。参加者の健康な若年者(63名,平均24才,女性が8割)は2つの条件で模擬的な勤務を行ってから睡眠をとりました:①日勤(7時~15時)から次の日勤(7時~15時)までのインターバル16時間条件,②夕勤(15時~23時)から次の日勤(7時~15時)までのインターバル8時間条件。通常の生活に近づけるため,インターバルでとる睡眠の就床時刻は特に決められませんでした。ただし,次の日勤に遅れないように起床する必要はありました。
専用の装置を使って睡眠を客観的に測ると,16時間条件(睡眠時間帯 23時~6時)に比べて8時間条件(睡眠時間帯 0時~6時)では,総睡眠時間が50分ほど短くなりました(浅いノンレム睡眠20分,深いノンレム睡眠10分,レム睡眠20分)。主観的には8時間条件で睡眠の質の悪いことも分かりました。なお,就床前の感情の高ぶり(例,眠れるかどうか不安)については条件間の差はありませんでした。
これらの結果から,短い勤務間インターバルでは睡眠が短くなり,その内容としてノンレム睡眠(主に心身の疲労回復に重要),レム睡眠(眼球が早く動き,体は弛緩した睡眠の状態で,主に記憶,学習,感情の整理に重要)ともに減少することが示唆されました。
解説
本実験のように,勤務間インターバルの長短に伴う睡眠の状態を客観的に評価した研究はとても貴重です。
インターバル8時間条件で,浅いノンレム睡眠やレム睡眠が20分ほど短くなったのは睡眠自体が短くなったことによると考えられます。特に,レム睡眠は一定時間ごとに,睡眠の後半で多く現れるので、睡眠が短いと,奪われやすくなるからです。
今回の研究では,深いノンレム睡眠もやや減少していました。この点は注意が必要です。というのも,8時間条件において夕勤の前の晩にとった睡眠では起床が朝8時半でした。16時間条件の起床は朝6時でしたので,2時間以上遅くなっています。そうなると,起床から夕勤後の就床までの覚醒時間は約1時間半短くなっていました。起きている時間が短いと深いノンレム睡眠は少なくなる傾向があるので,インターバル時間というよりは就床までの覚醒時間の差によるのかもしれません。
8時間条件では夕勤終了が23時でしたので,就床は0時でした。16時間条件より1時間遅くなったわけですが,にもかかわらず,翌朝には寝坊せずに起きて朝7時から日勤で働かなければなりません。もしかしたら,そうした心理的なプレッシャーが深いノンレム睡眠を抑えたとも予想されます。
今回取り上げた実験研究には幾つもの限界はありますが,勤務間インターバルと睡眠の客観的な量と質に関する調査研究の出発点のように思えます。これからの更なる検証が待たれます。