病院勤務医師の長時間労働と短時間睡眠:高ストレス状態と抑うつ状態との関連

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目次

出典論文

Matsuura Y, Tomooka K, Wada H, Sato S, Endo M, Taneda K, Tanigawa T.The association of long working hours and short sleep duration on mental health among Japanese physicians. Ind Health. 2024 Sep 27;62(5):306-311. doi: 10.2486/indhealth.2023-0174. PMCID: PMC11462403.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/indhealth/62/5/62_2023-0174/_pdf/-char/en

著者の所属機関

順天堂大学 大学院医学研究科 公衆衛生学講座

論文の内容

病院で働く医師は労働時間が長くならざるをえない職種の一つです。こうした働き方では,眠る時間は削られてしまいます。医師ですから、自身の体調が悪くならないように相当の注意はしていても、諸条件が重なれば、心身のトラブルはどの医師にも起こりえます。患者さん、そして地域の健康を守る専門家の健康をいかに保つか、大事な課題になっています。

日本の病院で働く232名の医師(うち男性195名)を対象にした本研究では、週当たりの労働時間、1日当たりの睡眠時間、職業性ストレス簡易調査票による高ストレス状態、Center for Epidemiologic Studies Depression Scaleによる抑うつ状態の関連を調べました。なお、高ストレス状態については標準の基準によって判定された参加者が少なかったため、この研究ではその基準を緩めて判定しました。

週労働時間は80時間以上か否か、睡眠時間は6時間以上か否かで、それぞれ二群に分けました。そして、各二群をかけ合わせて次の四群を作りました:Ⅰ. 労働週80時間未満・睡眠6時間以上群(118名, 51%)、Ⅱ. 労働週80時間以上・睡眠6時間以上群(25名, 11%)、Ⅲ. 労働週80時間未満・睡眠6時間未満群(59名, 25%)、Ⅳ. 労働週80時間以上・睡眠6時間未満群(30名, 13%)。これら四群と上記指標との関連を検討しました。

年齢、性別、病院種別による影響を統計的に調整した結果によると、Ⅰに比べて、Ⅱ(調整済みオッズ比 2.76, 95%信頼区間 0.97–7.87)、Ⅲ(3.36, 1.53–7.40)、Ⅳ(3.92, 1.52–10.14)の高ストレス状態は多いことが分かりました。抑うつ状態については、Ⅲ(4.03, 1.41–11.53)とⅣ(4.69, 1.33–16.62)はⅠより多かったものの、Ⅱは統計的に有意な増加は認められませんでした(1.82, 0.42–7.81)。

ⅢとⅣでは高ストレス状態、抑うつ状態ともに多かったという結果は、労働時間の長短にかかわらず、睡眠の短いことが関連していると考えられます。一方、Ⅱの抑うつ状態は必ずしも高くなかったというデータからは、労働時間が長くても、睡眠が確保されていれば、長時間労働の影響を緩和できるかもしれないことが示唆されます。

RECORDsメンバーによる解説

今回紹介した研究は労働、睡眠、メンタルヘルスの関連をある一時点で調べたものですし、参加した医師数も200名程度などの限界はあります。とは言え、長時間労働になりがちな医師であっても、眠る時間を保証することでメンタルヘルスの悪化を防げる可能性を示しています。

ご存じのとおり、令和6年度(2024年度)から、医師の時間外労働に上限値が定められています(https://c2-shinsasoshiki.mhlw.go.jp/system/)。重要なことは、この規制に併せて、「勤務間インターバル9時間の確保」や「時間外労働月100時間を超える医師への面接指導」などの健康確保措置が義務付けられていることです。

働く時間の長さを調整する(上限を設ける)ことは大切ですが、医師、建設業従事者、職業運転者を含めて、労働時間を短くしようにもどうしても叶わない場面のある職種では、休むべき時間を保証し、そのインターバルで睡眠をしっかりとって疲労を回復する方策は有効ではないかと思われます。

高橋 正也(たかはし まさや)
記事を書いた人

高橋 正也(たかはし まさや)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)のセンター長で、専門分野は産業睡眠医学。過労死等研究では、各チームの研究を支援しつつ、研究代表として全体を統括。研究者としてのキャリアは、労働省産業医学総合研究所の研究員から始まり、その後、米国ハーバード大学医学部ブリガム・アンド・ウィメンズ病院・睡眠医学科の博士研究員を経て、現在の地位に至る。睡眠、生体リズム、勤務スケジュール、職場の心理社会的環境、過重労働が研究テーマ。また、仕事とプライベートのオンオフのバランスを重視しており、オフの時間は家族と過ごすことを楽しみにしている。