【報告!】令和7年度過労死等防止調査研究センター 研究成果発表シンポジウム
2026年3月4日(水)、会場(AP新橋)とオンラインで、過労死等防止調査研究センター(RECORDs)研究成果発表シンポジウムが開催されました。
今年度は、「過労死等研究の世界を覗いてみませんか?」をテーマに、2部構成で開催しました。第1部は、例年通り、皆さまに過労死等研究を知っていただく時間、第2部は、ご希望者の皆さまと一緒に考え・意見交換をするインサイトセッションを行いました。
第1部:あなたの知らない過労死等研究の世界
Ⅰ.研究成果レビュー
過労死等研究を総ざらいしました。
◇ 過労死等防止調査研究センターの研究成果
久保 智英(過労死等防止調査研究センター 上席研究員)
Ⅱ.研究成果Pickup解説
過労死等防止調査研究センターが行う過労死等研究の中から、一押しのトピックスをPickupして深堀しました。
◇ 過労死等認定ファクトから見た、防止視点
吉川 徹(過労死等防止調査研究センター 統括研究員)
◇ “暴言”から見た、職場コミュニケーションに関する知見
西村 悠貴(過労死等防止調査研究センター 主任研究員)
Ⅲ.オープンディスカッション
「なぜ精神障害の労災請求が増えているのか?」「その対策として何が必要か?」をテーマに、参加者と研究者が同じ場で意見を交わすオープンディスカッションが行われました。事前アンケートの分析結果と、リアルタイム投票をもとに、精神障害事案の増加要因と対策について議論が深まりました。
◇ なぜ、今、精神障害事案は増加しているのか
司会 木内 敬太(過労死等防止調査研究センター 研究員)
加島 遼平(社会労働衛生研究グループ 研究員)
登壇者 吉川 徹(過労死等防止調査研究センター 統括研究員)
西村 悠貴(過労死等防止調査研究センター 主任研究員)

1. 参加者アンケートから見えた“増加の背景”
事前アンケートと当日のリアルタイム集計では、以下の意見が多く挙がりました。(多かった順)
① 精神障害についての認知度が上がり、申請しやすくなった
“労災として認められる”という理解が広がり、制度にアクセスしやすくなった。
② 人間関係の希薄化・コミュニケーション不足
コロナ禍でのリモートワークやチャット中心のやり取りなど、「相手の状態が分かりにくい働き方」がストレスの要因になっている。
③ 働き方の複雑化・高度化による精神的負荷の増加
業務が多様化し、求められるスキルも増えたことで負荷が高まっている。
④ ハラスメント概念の浸透(可視化の進展)
パワハラ防止法(2020年施行)により相談窓口が整備され、以前は「問題」とされなかった行為が言語化されるようになった。
⑤ コロナ禍による働き方・対人関係への影響
“久々の対面”で対人負荷が増えた。
⑥ 女性就業率の上昇
医療・福祉など女性が多い業種で精神障害事案が増加しており、業界構造が影響している可能性がある。
2. 研究者からのコメント
発表者からも以下の補足がありました。
● 「申請が増えた=精神障害が急増した」とは限らない
・就業人口の微増・女性の社会進出も影響している
・医療・福祉などで申請が急増しており、業種特性も大きい
● “酷い職場”は依然として存在している
健康経営が広がって職場環境が改善した職場がある一方で、深刻なハラスメントや長時間労働が続く職場もまだ残っている。
● 精神科の受診や診断のしやすさも背景の一つである
診断基準の明確化・専門医の増加により、適切に診断・休養が取れる環境が整いつつあるという側面もある。
3. フロアからの意見(抜粋)
● 「女性の増加は就業構造の影響なのか?」
・医療福祉・建設補助など、女性が少数派で強いストレスを受けやすい職場構造もある
・セクハラ申請件数の増加など、ジェンダー特性が影響している可能性もある
● 「申請件数は増えても、実際の精神障害が増えたと言えるのか?」
・精神疾患そのものは緩やかに増加している
・しかし労災請求は“それ以上のスピード”で伸びている
・可視化・社会的機運の高まりが反映されている
● 「ストレスに“強くなる”教育も必要なのでは?」
・個人スキル強化は一部有効である
・ただし“個人に責任を押しつけないバランス”が必要である
・顧客ハラスメントなど、個人だけでは対処できない問題もある
4. リアルタイム投票から見えた“必要な対策”
● 最も票を集めた対策
1位:人間関係・コミュニケーションの改善
・心理的安全性の確保
・暴言・叱責ではなく、建設的な声かけ
・報告しやすい風土づくり
・ハラスメント防止策の強化
● 次点
新しいワークルール(勤務間インターバル・つながらない権利・週休3日制)
● その他の意見
・職場環境改善のための管理職教育
・適切なマッチング(適材配置)
・ストレスチェックの活用
・業務量の適正化
・労働時間管理の徹底
・研究の強化
5. まとめ
ディスカッションと研究成果を総合すると、精神障害事案の減少に向けては、次の方向性が重要と整理されました。
・労働時間管理を徹底する(長時間労働は最優先課題)
・ハラスメント・暴言を容認しない組織文化をつくる
・事故・災害後の心理ケアを制度として組み込む
・業種ごとの特徴に応じた対策を整備する
・職場の声を反映した改善(押しつけで終わらない対策)を行う
・心理的安全性の高いコミュニケーション環境を育てる
・個人のケア支援と組織改善のバランスをとる
シンポジウムの議論を通して、精神障害事案の増加は単一の原因ではなく、社会構造・働き方・人間関係・価値観変化が重層的に影響しているということが整理されました。対策については、個人のメンタルケアだけでなく、職場のコミュニケーション文化・業務設計・制度を含めた“多層的な改善”が求められているという議論となりました。
第2部:あなたの声が、未来の研究を動かします
Ⅳ.インサイトセッション
今年度初の試みとして、現地で参加する希望者の皆様と研究者がグループに分かれて、2つのテーマについて、意見交換を行いました。
◇テーマ:なぜ、今、精神障害事案は増加しているのか
- 精神障害事案増加の要因と対策
- 過労死等防止調査研究センターの取組みについて
ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
来年度も、皆さまにとって新たな気づきやつながりが生まれるような企画を考えていきたいと思います。